遺言書の重要性~『民法改正により』

不動産・預貯金など一定の財産を持った方がお亡くなりになった場合、配偶者や子供が法定相続人となって、それらの財産を相続する事になります。

相続する事とは、お亡くなりになった方の代わりに所有権を取得する事です。
夫名義の土地を妻名義の土地に所有権を移転する事がそれに当たります。

このように土地・建物・証券・預貯金など一定の財産を法定相続分に応じて各相続人に所有権を移転する事が、一般的に言う、遺産相続手続のことです。

法定相続分は法律(民法)に規定されています。
配偶者は全相続財産の半分を所有する権利があります。

残りの半分は子供の人数に応じて均等に分けられます。
3人子供がいる場合、3等分されます。

なので、全体の相続財産の6分の1をそれぞれの子供は相続する事ができます。


しかし、これは遺言書がない場合です。
被相続人(亡くなられた方)が生前になんらかの方法で遺言書を作成していれば、まずは遺言書の内容に従います。

例えば遺言書に以下のような文言が記載されていれば、その通りに従う義務があります。

〈記載例〉
第1条
 遺言者は、次記財産を遺言者の長女・さとみ に相続させる。

 1.土地
  所在:東京都練馬区○○町1丁目
  地番:2番1号
  地目:宅地
  地積:210平方メートル

 2.建物
  家屋番号:2番1号
  種類:居宅
  構造:木造モルタル瓦葺2階建
  床面積:1階 137平方メートル
  床面積:2階 125平方メートル

このような記載があれば、この土地と建物は長女さとみさんが相続する権利があります。

後は、この遺言書の内容を実現するために土地と建物の所有権移転登記をすればさとみさんが土地と建物の所有者になります。

このように被相続人(亡くなられた方)が生前に遺言書を作成して、自分の財産を誰にどの位相続させるのかを明確に示してくれれば、遺産相続手続がスムーズに進みます。

なので、一定の財産を有している方は、今のうちからでも良いので遺言書を作成しておく事をお勧めします。

一度作成した遺言書は後日訂正が可能です。
遺言書は日付が新しいものが優先されるので、訂正したい箇所を追加で書いてもよいです。

全ての内容を書き直したい場合は、今までの遺言書を破って捨てて新しい遺言書を書き直しても良いと思います。

事前に遺言書を作成しておけば、遺産分割で争いになることがなくなるので、後日のトラブル防止にも役立ちます。


遺言執行者の権限の明確化~『民法改正により』


近年遺産相続に関わる社会問題で空き家の増加が指摘されています。
相続時に相続登記がなされない不動産が多数存在することが原因と言われています。

不動産登記は、専門家(司法書士など)であればそれほど難しい手続ではありませんが、一般の方が自分で不動産登記の手続をしようとすると、かなり面倒に感じるのではないでしょうか。

手続の仕方について勉強して法務局に何度か行くことになるので、忙しい人や面倒に感じる人は積極的にやろうとしないと思います。

また、不動産を分割して複数の相続人で共同で所有する場合や、抵当権の付いている不動産を相続する場合などもあります。

このような不動産の相続手続は、物件の資産価値や権利関係なども考えて行わなければならないので、一般の方が簡単に出来るものではありません。

仮に遺言書があっても、不動産の相続手続は複雑になる場合があるので、それが、空き家問題が生じる根本的な原因ではないでしょうか。

そこで、民法の改正が行われました。
民法1012条が以下のように改正されました。

民法 第1012条
 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する

この改正によって、遺言執行者は単独で不動産の所有権移転登記ができるようになりました。

今までは、遺言執行者といえども、単独で不動産の所有権移転登記の手続をする事は、判例で認められていませんでした。(最高裁判例 平成7年1月24日)

しかし、今回の法改正によって、登記手続が遺言執行者に認められて空き家問題の解消に期待が持たれるようになりました。

遺言によって財産を相続することとなっている相続人と連絡がとれない場合や相続人が認知症になっている場合でも、遺言執行者が単独で不動産登記手続をして遺言内容を実現する事が出来るためです。

また、もう一つ大きな民法改正がありました。(民法1016条)

民法 第1016条
 遺言執行者は自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う

遺言執行者に広く復任権が認められて、第三者に委託して行わせる事が出来るようになりました。

遺言執行者に法的な知識が少なくて遺言内容を実現するのが難しい場合でも専門家に委託して行わせることが出来るので、より機能的に遺言執行者の職務を遂行する事が出来ます。

今までは、登記の専門家の司法書士にしか不動産登記手続を委託する事が法律上出来ませんでしたが、遺言執行者に登記手続が認められたので、委託される人も当然に登記手続を行う事が出来ます。

遺言執行者は誰にでも委託して登記手続を行わせる事が出来るようになったので、多くの人が登記手続に関与して空き家問題を解決する事ができるでしょう。


特定財産承継遺言でなければダメ


上記のように多くの人に相続における不動産登記手続に関与させるには、特定財産承継遺言でなければいけません。

特定財産承継遺言というのは、遺産分割の方法を指定して、特定の財産を相続人の一人又は数人に承継させる内容の遺言のことです。

つまり、ある不動産を、誰にどの程度、相続させるのかを明確に示す必要があるのです。
上記の遺言書の記載例のように書かれていれば問題ありません。

その場合に限り遺言執行者は遺言に書かれている内容に従って、不動産登記手続を単独で行うことが出来ます。

遺言書に書かれていない法定相続分に従って行う相続による不動産登記手続は、今まで通り相続人が自分でするか又は司法書士に委託して行ってもらう必要があります。

遺言書がなくて相続人の間で遺産分割協議を行い、不動産の相続内容が決まる場合もあると思います。

この場合も相続人又は司法書士が不動産登記手続をする事になります。

あくまでも遺言書があって、その中で不動産の相続内容が明確に示されている場合に限って、遺言執行者に遺言の内容に従って不動産の所有権移転登記をする事が認められました。

遺贈など法定相続人以外の人に不動産を相続させる遺言があった場合は、当然に遺言執行者が登記手続をして遺言内容を実現する事が出来ます。


遺言内容を確実に実行するには遺言執行者を付けると効果的


今までの法改正で見えてきたことから言えるのは、後々のトラブル防止を考えると遺言を残しておいた方が、効果的であると言えます。

そして、遺言を残すのならば、遺言執行者を指定しておいた方がより確実に遺言内容を実現出来る、ということです。

遺言執行者は遺言の中で指定する事が出来ます。
法人を遺言執行者に指定する事も出来ます。

相続人や受遺者(遺贈を受ける人)を遺言執行者に指定する事も出来ます。
遺言執行者は未成年や破産者はなれませんが、幅広くなることが認められています。

遺言執行者の権限が明確になった以上、遺言書を残すのならば、遺言執行者を指定しておいた方が、トラブル防止に役立つと思います。