就業規則を見直そう~労働法改正で格差解消

2020年4月施行の改正労働法の「パートタイム・有期雇用労働法」では、パートや有期雇用労働者の待遇が正社員と異なる場合、その待遇差を与える合理的な理由が必要になります。

この合理的な理由とは、単に職務内容や仕事の責任の重さが異なるといった、違いだけではダメで、その違いが仕事内容や責任の重さと直接関係があって、必然的に職務内容から生じてくる待遇差でなければいけないということです。

つまり職務内容が違ったとしても、すべての待遇差が認められるわけではないということです。

例えば、通勤手当や家族手当、賞与など、正社員では当然認められてきたこのような手厚い待遇をパートや有期雇用労働者だという理由だけで認めない、というのは合理的な理由があるとは言えなくなってきます。

もし、正社員にこのような手当があるのであれば、非正社員にも認めなければならなくなります。

通勤手当や家族手当、賞与などの手当は、仕事内容とは直接関係のないものなので、一律に、待遇差を設ける事は不合理とみなされる可能性があります。


通勤手当は?


個別に見ていくと、通勤手当は、どこに住むかは労働者個人が自由に決められることです。
通勤費用を少なくしたいと思っている人は職場の近くに住めばいいことだし、プライベートな活動範囲を職場の近くにしたくないと思っている人は、遠くに住めばいいことになります。

正社員だから職場の遠くに住まなければいけない、という決まりもありません。
住む場所は直接仕事とは関係ないので、その通勤費用を会社が負担するかどうかの違いを正社員だけに限定することは合理的とはいえません。

職務上、職場の近くに住むことが必要な仕事又は緊急を要する仕事に就いている人は、職務手当、若しくは基本給として通勤費用を会社が負担する必要があるかもしれません。

その場合でも、正社員や非正社員であるかということを判断基準にすることはできなくなります。
あくまでも職務内容と関連性のある通勤費用の負担なので、職務内容から見て、住む場所が限定されている全ての従業員を対象として負担する必要があります。

家族手当は?


正規、非正規関係なく、従業員は等しく家族を持つことができます。
また、家庭を持つことと仕事内容とは直接関係ない、と言えると思います。

仮に正社員の人が結婚していて、子供がいる場合、家族手当が支給されたとします。

その場合、非正社員の人も結婚して子供がいる場合、同じく家族手当が支給されなければ、合理的とは言えなくなります。

もし、家族手当を付けるのであれば、等しく全ての従業員に認められなければならないことになります。


賞与は?


賞与というのはいわゆるボーナスのことですが、これは日本独特の制度で難しい運用がなされています。

それは、賞与の支給基準が労働時間からくるのか、それとも仕事内容の成果からくるものなのか、判断がつきにくいためです。

通常は、残業などをたくさんして多く働いた人に報いるために、賞与を支給している会社が多いと思います。

正社員で、仕事が終わるまで帰れない場合、残業をすることも多くなると思うので、賞与を支給することは、合理的な待遇差であるようにも思われます。

また仕事内容で、特別な成果を上げた正社員に賞与を支給する会社もあるかもしれません。

しかし、残業をしたり、特別な成果を上げる非正規労働者もいるかもしれません。

一概に業務内容が異なるからと言って、賞与の支給を初めから正社員だけに限定しているのは、不合理な待遇差にあたるかもしれません。

職務の責任の重さから賞与を支給する場合もあるかもしれません。
しかし、その場合役職手当など、その職務についている人を対象にした支給であることが必要になってきます。

正社員でも実際には、あまり責任の重くない仕事をしている場合もあるかもしれません。
そのような場合、正社員だけに賞与を支給することは不合理と考えられるかもしれません。


最終的な判断は裁判所の判例による


この改正労働法は、まだ始まったばかりなので、判断基準が難しいところです。
どこまでの待遇差が認められるかは、具体的な事例がまだあまりないので、判断できないところです。

合理的な基準もあいまいな部分が多く、具体的に、どのような場合が不合理にあたるかは明確に言うことができません。

もし明確な判断基準を求めるのであれば、実際に働いている労働者が、自分の職場で不合理と感じる待遇差を、裁判所に訴え出ることが必要になるかもしれません。

これは男女雇用機会均等法ができた時と似ていると思います。
職場で女性だから、という理由だけで、待遇差があった場合、差別と感じた女性が訴えて裁判をおこすケースがたびたびありました。

その都度、裁判所の判決で具体的な差別事由が明らかになって、同じような男女の待遇差がある会社は改善措置をしてきました。

このような過程を繰り返して、少しずつ男女間の待遇差をなくすように社会全体で改善してきた経緯があります。

同じように改正労働法も、個別具体的に運用されなければ意味がありません。
改正労働法の条文はシンプルすぎてよくわからないと思う人は多いと思います。

それを補うものとして行政内部で定めた通達などもあります。
労働基準監督署が是正処置を勧告する判断基準になります。

しかし、これらの基準はあくまでも行政側からの一方的な基準なので、必ずしも労働者の利益にかなっているとは言えない側面があります。

個別な案件では行政側も前例がない場合、対応できないことが多いのです。
労働法は労働者と会社との約束事を定めた、基本法です。

あくまでも民間人同士である労働者と会社(法人)を規定する法律なので、行政や立法ができることには限界があります。

個別の案件は労働者自身が裁判所に判断を仰ぐことが一番の解決策になると思います。

裁判判決で具体的な事例をたくさん作って、このような場合は不合理な待遇差に当たると、明確に判例が出れば、改善措置をする会社も増えてくると思います。

そのような過程を経て、少しずつ不合理な待遇差をなくして、格差是正をしていくことが将来のあるべき姿だと思います。