パワハラ防止法が施行されて・・・
2020年6月1日、改正労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)が施行されました。
一般的にはパワハラ防止法と呼ばれていますが、具体的には、労働施策総合推進法に以下条文が加えられました。
〈労働施策総合推進法〉
第八章 職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等
第30条の2
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
パワハラ防止法の基本的な理念は上記の条文に記載されているものになります。
少し長すぎて、わかりにくいと思いますので、ポイントだけを解説すると以下のように解釈出来ます。
「職場において、優越的な関係を背景として行われる言動が、社会通念上の限度を超え、他の労働者になんらかの支障を与えた場合、パワハラに該当する可能性がある。」
という事です。
つまり、パワハラに該当するような行為を行った場合、違法性が出てくる事になります。
しかし、この条文には罰則がないので、パワハラ行為を行ったとしても、警察に捕まって刑罰を受ける事はありません。
罰則がないので、パワハラ防止にあまり効果が期待出来ないという声も聞かれますが、法律としてしっかり明文化された事の意味は大きいと思います。
なぜなら、パワハラ行為そのものが違法行為となったので、パワハラ行為を行った人はなんらかの不利益を受ける可能性があるからです。
パワハラのような違法性のある行為を行った場合、不法行為に該当する可能性もあるので、その場合、その責任を損害賠償という形で追求される場合があります。
法律は運用の仕方によって、毒にもなるし、世を救う事にもなります。
つまり、運用の仕方次第で、自分や会社、ひいては社会全体を守る事が出来ます。
法律を上手に運用するには、法律の活用方法を知らなければいけません。
ここでは、実例をまじえて、この法律をどのように活用したらよいのかを解説してみます。
上司からの度重なる恫喝によって心身を害して働けなくなった時
職場では、上司が部下を働かせるために、仕事に必要な事を教える機会が多いと思います。
このような時、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によって指導又は監督をするとパワハラに該当してしまう可能性があります。
複数の事例から考えてみる必要があります。
例えば上司が、仕事でミスをした部下を大勢の前で大声で威圧的に叱った場合はどうでしょうか?
このような行為は、職場ではよくある事かもしれません。
これがすぐにパワハラになるかは難しいところです。
なぜなら、状況やその後の対応次第では様々なパターンが考えられるからです。
叱られる事を部下が納得していて、その後の業務改善に役立っていれば、パワハラとはとられにくいかもしれません。
労働者は叱られた事で反省して、今度はミスしないように注意深く業務を行うようになるからです。
仮に労働者が叱られる事を納得していなくても、長い目でみたら労働者の成長に役立つ事もあります。
このように単純に叱るという行為が、そのまますぐパワハラになるかどうかは、議論があって難しいところです。
しかし、継続的に大声で長時間怒鳴り続けて叱られた場合は、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動と言えるかもしれません。
このような行為はパワハラととられる可能性が高いかもしれません。
そして、継続的に大声で怒鳴られた事で労働者が心身を害して病気になり、働けなくなった場合、不法行為に該当する可能性が出てきます。
不法行為の認定基準については別のページで解説しているので、そちらを参照してほしいのですが、わかりやすく言うと、なんらかの損害が発生している場合、不法行為になる可能性があると言う事です。
結果論のようになってしまいますが、叱られた後も、問題なく業務が継続出来ていれば、損害は発生して無いことになります。
パワハラ行為があっても、具体的に損害が発生していなければ不法行為に該当しない可能性があります。
反対に、叱られた事で心身を害して働けなくなった場合、本来働いていれば得られていたはずの賃金が得られなくなってしまったので、損害が発生している事になります。
この場合は、労働契約期間分の賃金を損害賠償請求出来る可能性があります。
つまり、パワハラ行為を受けた事で、裁判所に不法行為による損害賠償請求の申立てが出来る可能性は十分あるという事です。
もし、裁判所に申立てるのであれば、会社側を相手方として、支払督促の申立てをする事をお勧めします。
事業主には、パワハラを防止する義務があるので、パワハラによって被害を受けた場合、その責任を事業主に追及する事は可能です。
いきなり裁判を申立てると費用や手続の面で大変ですし、相手方も裁判で争うとなると、慎重に準備してくるので時間もかかります。
会社側は裁判で負けたという事実がつくと、社会的に大きなイメージダウンになるので、必死で争ってくる可能性もあります。
裁判になると、証拠や証人集めなどもしなくてはならないので、こちら側も負担が大きくなります。
しかし、支払督促であれば、手続が迅速に進み、証拠も必要ありません。
支払督促が発布されて、相手方が反論せず、支払いに応じてくれれば、それで事件は終わります。
支払督促の申立ては、あくまでも損害に対する補填が目的なので、その目的が果たせればそれ以外の事はなにも起こりません。
支払督促は発布後1ヶ月経過したら、自動的に効力がなくなるので、双方とも特別な手続をしなくても自動的に、紛争が終了したことになります。
裁判もありませんので、相手方の名誉が必要以上に傷つく事もありません。
シンプルに被害者の救済だけを目的とするなら、支払督促はとても利便性の高い制度だと言えます。
このようにパワハラ行為を行うと、一定のペナルティーを受ける可能性があるので、職場での言動は、今までより慎重になる必要があるかもしれません。
何がパワハラになって、どのような行為が問題とされるかは、最終的に裁判所が判断する事になります。
個々の事例を裁判所が判断して、不法行為と認定されてしまえば、損害賠償責任が追求されるので、パワハラの防止に一定の効果があるのではないでしょうか。
誰でもパワハラの加害者になりうる
パワハラ防止法は、優越的な関係を利用して、相手に損害を与える事を違法行為としています。
これは、上司だけでなく、部下もパワハラの加害者になると言うことです。
例えば、部下が集団で上司の命令に従わない事で業務に支障が出た場合、パワハラに該当する可能性があります。
同じ労働者同士でも、優越的な立場を利用して、相手の業務に支障が出るような行為を行った場合、パワハラ行為に該当する可能性があります。
パワハラ防止法は加害者を特定の立場の人に限定していないのが特徴です。
条文は、優越的な関係という抽象的な文言で表現されているので、立場に関係なく、優越的な関係が成立していれば、パワハラの成立要件の1つに該当します。
このように誰でも、パワハラの加害者になり得るので、日頃からパワハラに対して関心と理解と深めて、必要な注意をしていかなくてはなりません。
必要があれば、社内規則で明文化する事も重要です。
パワハラを防止するための措置を具体的に検討しておく必要があります。
社内研修などを行って、日頃から周知徹底を行っていくことが、パワハラに対する意識の向上に繋がり、ひいてはその防止に役立つのではないかと思います。